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カタログスペックの悩み
民生用オーディオの世界では、みなさん、必ずと言っていいほど、カタログの数値を気にされると思います。複数の製品のカタログを見ながら、その数値を比較検討されたことのあるオーディオファンの方は、数知れないと思います。
しかし、その数値の中には、一見性能が良いと見せかけて、実は、意味のない数値であった、というようなものもあります。
例を挙げると、民生用アンプのスペックに、全高調波歪率というものがあります。パワーアンプのカタログスペックとして、この数値は低ければ低いほど、性能がいいと、みなさん、思ってらっしゃると思います。しかし、全高調波歪率というものは、あまり意図的に低く調整すると、倍音成分を削ってしまい、音の生々しさが損なわれてしまいます。
一方で、我々の販売しているプロ用アンプの Thomann S-75, S-100, S-150 のカタログスペックには、全高調波歪率という項目はありません。このメーカーにとって、この数値を測定したり調整したりすることは、意味のないことだからです。
全高調波歪率というのは、アンプが生々しい音を出すように作ってみて、実際に測定したらこれこれこの程度であった、という結果論でしか論ずることのできないものであって、初めから、低い数値になるように調整しなくてはならないものではないのです。
だってそうでしょう。意図的に全高調波歪率を低く設定したら、音の生々しさ、リアルさが損なわれてしまいます。これでは意味がありません。
このように、全高調波歪率を例にとってみてもわかるように、民生用オーディオの世界には、意味のない数値、意味のないスペックが混ざり込んでいます。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
野菜を例に取ります。レンコンは、普通に収穫したものは、泥で汚れて、茶色いです。ところが、ある日、これを漂白剤で白くして販売し始めた業者が現れました。主婦のみなさんは、綺麗な白いレンコンを見て、これは美味しいに違いないと騙されて、買いに殺到します。いつしか、茶色いレンコンは売れなくなってしまいました。そこで、業者さんみんな、レンコンを薬品で漂白して売るようになってしまいました。
野菜の栄養価とか安全性にとっては、漂白剤なんかで白くした野菜などもってのほかなのですが、(安全性はダメでも栄養価は変わらないかもしれませんが)市場の原理で、土で汚れた野菜は売れなくなってしまったのです。レンコンだけでなく、大根もそうでしょう。
余談ですが、最近は健康食ブームのせいか、泥で汚れたままの野菜を販売するところもあるようです。ただ、又、白いレンコン、白い大根が勢いをぶり返す可能性もあります。
民生用オーディオのカタログスペックもこれと同じで、全高調波歪率のような、意味のない数値であっても、これをできるだけ低く調整し、カタログに掲載することで、ユーザーの皆さん、騙されて購入するようになってしまいます。「歪」という字があるからこそ、低い方が良かれと思ってしまうのでしょう。茶色いレンコンと同じです。
結局は生音と関係のないスペックばかり気にする業者とユーザーのせめぎ合いの中に、我々が巻き込まれているだけなのですが、プロ用アンプのように、生音に本当に関わりのあるデータのみ、掲載するべきだと思います。ダンピングファクターなどがそうですね。
ここを読まれた皆さんも、ぜひ、賢い消費者として振る舞うよう、心がけていただければと思います。私自身も、自分を戒めなくてはなりませんね。